平塚の花もよう vol.1『バラ農園を訪ねて』
- いとうまいこ

- 10月23日
- 読了時間: 4分
鎌倉・湘南・三浦エリアの街の魅力や暮らしの楽しみを、日常のふとした瞬間に感じてもらいたい。そんな想いから生まれたのが、テキスタイル研究所Casa de paño の「Local Textile Project」です。街を愛する人との対話を通して出会った、街の魅力や地元愛を、個性豊かなクリエイター達と共に「もよう」で紡ぎ、布製のローカルプロダクトを制作しています。
湘南の花もようシリーズのきっかけは、2025年5月にテキスタイル研究所 Casa de Panoにて開催した中澤楓さんのExhibition「KILIG」。この展示でコラボレーションさせていただいた由比ガ浜の花屋「ish」さんから、湘南特産の花の存在を教えていただいたことがはじまりで、その数週間後には、平塚の花農園を訪ね、リサーチが始まりました。

まず初めに見学させていただいたのは、平塚市で約50年間バラを栽培している「大沢園芸」です。平塚のバラの歴史や特長、バラ栽培で大切にしていることなどについて、大沢 知明さんにお話を伺いました。
県内トップクラスの生産量を誇る平塚特産の「バラ」
平塚のバラ生産は昭和30年頃から始まったと言われています。当時は花の需要が大きく高まっていた時期でした。それに応える形で、元々お米や露地野菜を育てていた農家さんたちが花農家へと転身し、平塚は国内有数のバラの産地として成長しました。一時は「日本一のバラの産地」と呼ばれるまでになりました。

園芸も約50年前に野菜農家から転身し、現在は全11棟のハウスでバラを栽培しています。
「平塚は、平野で温暖な気候に加え、丹沢山地の大山が壁となり台風や大雪などの自然災害が少ない。バラの栽培に適した土地なんだと思います。」
そう話しながら、大山と田んぼに囲まれたハウスの中に案内してくださいました。

欠かさず行う、1日2回の収穫
背丈よりもあるバラの樹木が列状に整然と立ち並び、まるで迷路のようなハウス。

樹木の上の方を見上げると、青空に向かってバラの蕾がまっすくと伸びています。

変化のスピードが速いため、早朝と夕方の1日2回収穫を行います。
「これはまだ蕾が硬いから明日かな。蕾がゆるみすぎてしまうと出荷できないので、必ず1日2回チェックしています」と大沢さん。

花切りをすると、そこからまた新しい芽が出てきます。若い葉は赤色ですが、枝が伸び成長するにつれ、だんだんと緑色の葉へと変化していきます。


また、薔薇の木は、約5年を目安に植え直しを行うそうです。苗を植えてからは、約4か月後に最初の収穫が始まり、以降は1か月半ごとに収穫を繰り返します。6月に訪れた際に植えたばかりだった苗が、10月に再度農園を訪れると、すっかり立派な木に成長しており、成長スピードにびっくりしました。
土で作り続けることへのこだわり
「同じ品種でも、作り手によって雰囲気が変わってくるのがバラ。手入れの仕方、光の入れ方、手間のかけ方でも変わってきます。また、根っこをどこに張らせるかによって、色の出方も変わってくる。うちは、クラシックスタイルの土耕栽培で育てています。土で育てると"根性のある"バラが育ち、切り花にした後も長持ちします。日々の、雑草取りは大変だけれどね。」と、大沢さん。

水耕栽培が主流になってくる中、土で育てることを大切にしている理由は、持ちの良さと色へのこだわり。中でも、ピンクがかったオレンジ色の優しいグラデーションが特徴の品種「カルピディーム」は、大沢園芸の色の美しさが評価され、指名買いする花屋さんもいるそうです。

家業を続けなければ、平塚のバラ栽培が止まってしまう
大学卒業後は、サラリーマンを経て、家業を継ぐことを決心した大沢さん。
「お花屋さんがうちのバラを待ってくれていることは、薄々知っていた。ハウス設備の修繕を行い、湿度と温度管理の精度を高めて、父が始めたバラの栽培を続けようと思いました。」と、当時を振り返りました。
バラの生産者が減り続ける中、大沢さんは伝統的な栽培方法で品質を守り、持ちがよく、そして美しいバラを今日も平塚から届け続けています。
文:テキスタイル研究所Casa de paño
取材協力:大沢園芸






