石川県白山市から届いた杉の枝葉をたっぷり使って、大きなグリーンのタペストリーを織るワークショップを開催しました。講師は、染織作家の安部 里佳さん。
昨年の冬に好評だった「Weaving Christmas Tapestry」第2弾は、杉の可能性を探求し伝え手として活躍するライターの吉澤さんとの出会いがきっかけで、間伐の時に生まれる杉の枝葉に着眼。廃棄するしかないこの枝葉で、なにか新しい価値を見出すことができたらという想いから企画がスタートしました。
当日、白峰産業の尾田さんが杉をもって早朝に駆けつけてくださり、ワークショップ開始前に杉の葉を開催メンバーで観察しました。「杉の枝を見ると、一年で成長した分が分かるんだよ」と教えてくださり、赤ちゃん杉、子ども杉、大人杉という分類で、ワークショップで使用する杉の枝葉を丁寧に分けて庭に並べました。
杉の香りに包まれ穏やかな時間が流れる中、ワークショップがスタート。
まず、吉澤さんが杉の特徴を説明し、白峰産業を取材した際の写真などを紹介しながら、尾田さんとの掛け合いで林業についての座学を行ってくれました。
少しずつ杉との距離が縮まってきたところで庭に出て、尾田さんの使っている林業の道具などを実際に見せていただいたり、杉の観察方法を教えていただきながら、タペストリーで使用する枝葉を各自思い思いに選びました。
今年1年で伸びた柔らかい部分をタペストリーに使用し、木質化した部分を軸として使用します。スギの種や雄花がついたものをアクセントとしてセレクトする方も。
スタジオに戻り、いよいよタペストリー制作スタートです。安部さんのレクチャーを参考に、タテ糸を木枠の釘にかけ、ゆるく張ります。この大きな木枠は、だいたい30〜40センチある枝葉を横幅いっぱいにそのまま使えるようにと、ワークショップのために安部さんがオリジナルに開発してくださったものです。お互いに助け合いながらタテ糸を張っている光景がとても印象的でした。
タテ糸を1本交互にすくい、開口部に杉の枝を入れます。杉の枝葉は1本入れたら次は反対方向から差し入れてバランスをとります。一般的な織機の何倍も大きいのでダイナミックに織物をすることができ、参加者の皆様の目もきらきらと輝いていました。
そして、持参したオーナメントを飾ったり、B TAN FUJIYOSHIDAに素材提供していただいたネクタイ生地の残布を織り込んだりと、デコレーションも楽しみました。ネクタイの残布は、リボン状に切り、織り入れたり、枝葉に結びつけた状態で織り込んだり、タテ糸に結んだりと、様々なアイデアが生まれました。ネクタイの生地は、手で割くこともできるので、勢いのある心地の良い音がスタジオを包み込む瞬間も。
最後にタペストリーを壁にかける際の紐を結べるように、木質化したしっかりした枝をつけたものを1本、あるいは2本織り込み、上下のタテ糸を切って、枝葉が落ちてこないようにしっかり結びました。そして、壁掛け用の紐を結んで完成です。
完成した作品をスタジオに飾り、お互いの作品を鑑賞しながら、吉澤さんが持ってきてくださったスギやクロモジのアロマオイルの香りを楽しんだり、協賛いただいたQINOソーダを試飲し、様々な角度から五感でたっぷり味わいました。
杉の学名はCryptomeria japonicaで、「隠された日本の宝」という意味なんだそう。普段は、花粉症や林の中で邪魔者扱いされてしまう杉が、参加者の皆様の手によって織られ、タペストリーとして生き生きとした姿へと生まれ変わっていきました。間伐の時に生まれる杉の枝葉には、まだまだ秘めた可能性がたくさんありそうです。この先も、きっと杉の探求はまだまだ続きます。
参加者の皆様と一緒にタペストリーを制作したことで、主催者メンバーも新たな発見にたくさん出会うことが出来ました。ワークショップ後に今回の取り組みを振り返った時に寄せられたメンバーのコメントの一部をご紹介いたします。
ご参加くださった皆様、改めてありがとうございました。
・染織作家 安部さん
今あるシステムの中で生まれるモノを循環させること、その一助として、工芸技術の意味と目的を見出せないだろうかといつも考えています。作家が陥りがちな自己表現にだけにとどまらない、ひらかれた工芸のあり方を考えるためにもこういった活動を行うことの意味は大きいと感じています。
ステ耳や間伐材としてのスギの枝葉に興味を持つのは、それらが何らかのシステムを生み出すためのゴミの部分を担っているからだと思います。本来、自然の循環の中では本当の意味でのゴミやいらないものはないですし、すべてが「生産者」「消費者」「分解者」の循環の輪の中に存在します。人間の作るものだけがその輪の中に入らないものを生み出してしまう。それでも人がモノを作りたいと思う気持ちは否定したくありません。
作りたい、創造したいと思う気持ちを否定せずに循環の輪の中に参加するには今あるシステムの中で生まれてしまうゴミに着目するのは自然なことであるように思います。
・白峰産業 尾田さん
お客さんの中には、スギの種や芽をアクセントとして見せたいという人や、曲がった木部に苦戦している人や、スギの香りが心地よいとおっしゃる人がいてとても印象的でした。
いつもは林内で放置され邪魔者でしかなかった枝葉が皆さんの手によ ってみるみる素敵なものに変わっていく。そして、各人が思い思いにスギを選び織り込んでいくのを見 ていて、スギの枝葉が愛おしくなりました。
・編集ライター吉澤さん
林業の課題が抱える問題は、林業の人たちだけの話ではなく、この地球に生きる私たちすべてに関わる「環境を私たちはどのように今後守り維持していくのか」という話に直結しています。でも、社会問題として難しく捉える前に、まずは「素敵だな」と思える体験を通して、自分の気づきや発見として自分ごと化すれば、明日からの行動を私たちは変えることができる。つくること、触れること、対話することを重ねることで、私たちはこの世界をよりよく知り、親しくなることができます。
Photo:吉澤志保