取材・文:山本梨央 撮影:角田洋一
鎌倉・雪ノ下のクリエイティブスタジオ「Casa de paño」オープンを記念して開催される紙野夏紀 展覧会「 NATSUKI CAMINO TEXITILE AND COLLAGE EXHIBITION 2023 うみとたね 」。
紙野夏紀さんが今回の制作にあたって取り組んだことや、テキスタイルデザインに携わるようになるまでの道のりをお伺いしました。
イラストレーター・紙野夏紀が、テキスタイルに活動の幅を広げるまで
ー今回、クリエイティブスタジオ「Casa de paño」で開く最初の展示として、紙野さんの個展が開かれます。紙野さんは、テキスタイルデザインも行いながら、今もイラストレーターとして活動されているんですよね?
紙野:そうなんです。私はイラストレーターとして依頼を受けて絵を描くことが多いのですが、同時に自分の作品づくりをして絵の個展を開くこともあって。主に貼り絵で作品をつくっています。大きなロール紙に自分で筆で色を塗りその裏面に鉛筆で絵を描き、手でひとつひとつちぎりながら切り取っていきます。ロール紙を使ったりすることで、輪郭にもあたたかみがでたりして。そのちぎった絵の上から、細かい線や点などをアクリルガッシュで描き込んでいって、完成するという手法をとっています。
ーテキスタイルには、いつ頃から興味があったんですか?
紙野:大学時代は、実はテキスタイルを学んでいたわけではなくて。プロダクトデザインの専攻だったんです。テキスタイル科の人たちとはあまり交流がありませんでした。でも、一度社会に出てから絵を描くようになって、気づいたことがあったんです。自分のつくっているちぎり絵・貼り絵は、少ない色数で版を重ねてつくるテキスタイルの近い部分があるのではないか、と。そこで、テキスタイルにも挑戦してみようと思いました。
でも、いざ作ってみようと思ったらどうやって作ったらいいかわからなかった。工場とか、小ロットでどう作るかとか、そういう制作にあたってのフローが見えなかったんですよね。そのときに、テキスタイルデザイナーである鈴木マサルさんのブログを読んでいたら「コッカプリントテキスタイル賞」というコンテストがあることを知りました。2013年に応募したところ、グランプリをいただいて。これをきっかけに、コッカさんとシーズンごとの新作テキスタイルを発表するというのを3回ほど続けたんです。
イラストとテキスタイルの制作過程で見えてきた「違い」
ーいきなりグランプリというのもすごいですよね。テキスタイルのお仕事を始めてから気づいたことはありますか?
紙野:どちらも貼り絵の手法で原画を作るという意味では同じなのですが、まず立ち位置が違う、というのは感じました。これまでイラストレーターのお仕事として、比較的大きなプロジェクトでメインビジュアルを担当することも経験してきました。たとえば、駅全体をジャックするような広告やラッピングバス、アイスクリーム屋さんのフラッグやカップをはじめとしたノベルティグッズなど。自分の絵が社会に受け入れられ、機能していくワクワク感や充実感はある一方、仕事の立ち位置で言えば、実はとても部分的。私の仕事は絵を仕上げるところで終わってしまうので、あとは、デザイナーさんが完成までを繋いでくれます。何も気にせずに絵に集中できる良さもありつつ、私としてはイラストを納品したその先に関わることにも興味がありました。
でも、今回のように自分でテキスタイルを全てゼロから作るとなれば、私自身が旗振り役になります。以前、メーカーさんからデザインの依頼を受けてつくっていたときには、私は絵を納品したあとも工場を見学させてもらったりして、一連の流れを学ぶことはできました。どの生地を使うのか、生地の染めはどうするか、デジタルプリントにするのか手刷りにするのか、それはどこの工房にお願いをするのか。個展を開く、そして自分でつくるとなれば、とにかく決定することが非常に多いですが、自分で作るところから売るところまでをやってみたいと思っていたので、楽しいですね。
ー作るだけでなく売るところまでとなると、発想の仕方もまた変わりそうです。
紙野:実は今回の個展を開くにあたって、近所のカーテン屋さんにDMを置いていただけないかと相談に伺ったんです。それで立ち話をしていたら、カタログを開きながら「こういうのはこれくらいの価格帯。サイズはこういうので、洗濯のしやすさもこういう基準があるんだよ」と教えてくださって。どういう値段だと、どういう人が買っていくのか、どういう部屋で、どういう使われ方をするのかの解像度が一気に高くなった気がしました。
作った布が服や小物となり、みなさんの生活に馴染んでいく
ー旗振り役としていろんな人に声をかけるからこその、解像度の高さですよね。これまでに作って販売してきたテキスタイルは、どんな風に使われることが多いのですか?
紙野:メーカーさんとつくったテキスタイルが、小物入れや子ども服になっているのはよく見かけます。テキスタイルを買って下さった方が、Instagramでタグづけなどをしてくれて気づくこともあるんですよ。私のテキスタイルは比較的鮮やかな色で大きく絵が入ったものも多いのですが、特に海外の方は大人でもワンピースなどに仕立てて、とても素敵に着こなしてくださっている様子がときどき伝わってきます。
ー今回は服飾に使うだけでなく、部屋の中に大きく垂れ下がるように展示するなど、布だからこその透け感なども楽しめるような仕掛けになっていますよね。
紙野:はい。もともと、インテリアも好きでしたし、社会人になった最初は設計事務所で図面を書いたりする仕事をしていたくらい、建築にも興味があります。だからこそ、空間の中で自分のテキスタイルがどう活用されるのかというのが表現できるのも嬉しいです。
ー展示の中では、原画だけでなく、製作風景もご覧いただける構成になっています。来場者の方にはどう楽しんでいただきたいですか?
紙野:私が考えたコンセプトや柄の解説などをご覧いただく前に、一人一人がどう感じてどう楽しんでいただくのかは、自由にお任せしたいですね。そのあとで、例えば制作過程などをご覧になって、角度を変えて楽しんでいただけたらと思っています。
―最後に、今回の展示に向けた想いをお聞かせください。
紙野:ここ数年、私たちは生活が大きく変わる経験をしましたが、私自身も住まいというものをとても大切に感じるようになりました。家の近所を散歩したり、植物を育てたりする中で、気になるかたちをスケッチしたり、惹かれるものを見つけています。そのなかで、ふとこんなことを考えることがあるんです。普段の景色が普段通りでありつづけてほしい。その「普段」の中に、自分の絵が在りたい。と。
制作の合間に、気晴らしで少しだけ誰かと話したくなることがあります。たとえば、おしゃべりがてら近所のお気に入りのお店に、自分が作ったものを自転車に乗って届けにいきたい。それが、絵だったりテキスタイルだったりするといいなと思っています。今回は4年ぶりのテキスタイルの展覧会ということもあり、そんな想いを込めて制作しました。
紙野 夏紀
イラストレーター/テキスタイルデザイナー
京都市立芸術大学プロダクトデザイン専攻卒業。2007年よりフリーランスで活動を開始。表現技法は主に貼り絵、アクリルガッシュ。最近は水彩、デジタルなども。書籍、広告のイラストレーションの他、アパレル、テキスタイルデザインなどの仕事も手がける。
玄光社「ザ・チョイス」入選(2008)のほか、誠文堂新光社「ノート展」大賞(2009)、コッカプリントテキスタイル賞「inspiration」大賞(2014)など受賞経験がある。ドイツの美術出版社TASCHEN社発行の今世界で注目すべきイラストレーターを紹介した「ILLUSTRATION NOW! vol.5」(2014)に掲載された。
オリジナルテキスタイルブランドTörten(KOKKA)のほか、2018年には旅先で出会った風景を描いたファブリックコレクション “Paper Trip”を発表。グリコ牧場しぼりの期間限定ポップアップストアのメインビジュアル、イラストレーションを使ったノベルティ(2018)、保育用品メーカー ジャクエツのウォッシャブルマット(2020)などテキスタイルから派生した仕事も多い。
<開催概要>
NATSUKI CAMINO TEXITILE AND COLLAGE EXHIBITION 2023 『うみとたね』
会期:2023年8月23日(水)- 8月27日(日)
営業時間:平日11:00 – 16:00 土日11:00 – 17:00
会場:クリエイティブスタジオ Casa de paño
入場料:無料
事前予約制を取らせせていただいております。
予約お申込み後、受付メールにて所在地をご連絡いたします。
<ご予約時の注意事項>
*代表者様のみで一枠お申し込みください。 混雑を避ける為、1枠最大5名様(子供含む)迄でお願いいたします。
*当日1時間前まで、予約フォームより受付が可能です。
*日時変更およびキャンセルは、前日までにcontactフォームorメールにてご連絡お願いたします。
*無断キャンセルはお避けください。無断キャセルをしますと次回から予約ができなくなる可能性がございます。
*混雑緩和のため、30分間の「 予約制 」といたします。30分を過ぎても鑑賞可能ですが、次のお客様がご来場されます。ご了承ください。
*周辺は住宅街のため、お静かにお越しください。また、お車等でご来場の方は近隣のコインパーキングをご利用ください。
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