平塚の花もよう vol.3 花模様が出来上がるまで
- いとうまいこ

- 10月25日
- 読了時間: 4分
花農園での取材を経て、「平塚の花もよう」は、どのようにして生まれたのでしょうか。
デザインを担当したテキスタイルデザイナーの中澤 楓さんと共に、平塚の花模様が完成するまでの道のりを振り返り、そこに込められた制作秘話をお届けします。

ー中澤さんと言えば、花をモチーフにしたテキスタイルがとても印象的です。 日ごろからお花に触れ、観察することも多いと思うのですが、今回のPJを通して一緒に『花の生産現場』を訪ねたことは、何か新しいインスピレーションとの出会いにつながりましたか?
中澤:バラ農園では、背の高さまで茂る樹々の上に、バラの花がひょっこりと顔を出している姿がとても印象的でした。 あの生き生きとした成長の様子を1枚のデザインに表現するため、葉・花・つぼみを丁寧に観察し、バラの成長過程そのものを表現しています。また、『バラは品種ごとの魅力も楽しんでほしい』という生産者さんの言葉も強く心に残っています。 フリル感が強い品種や、花びら一枚一枚の丸みが際立つ品種など、それぞれの特徴を描き分けることで、品種ごとの多彩な美しさを表現しました。

一方、ガーベラ農園では、『茎をまっすぐに育てることを大切にしている』というお話がヒントになりました。 デザインでは、のびのびと生い茂る葉っぱと、まっすぐに伸びる茎、そして美しい花々を、1枚の生地の中で表現しています。

ーバラ農園で収穫の様子を見せていただいた時、 「バラの”成長過程”と生地の”リピート”に、意外な共通点がある!」と、2人で発見した瞬間はとても感動的でしたよね。
中澤:そうですね、普段シルクスクリーンプリントで長尺の布を作ることが多いのですが、シルクスクリーンプリントは柄が続くようにリピートがついた原画を制作します。

バラ農園で、「花を収穫した後、切った部分からまた枝が生えてきて蕾をつけ、上に上に伸びるように成長を繰り返す』というお話を伺ったとき、 柄がずっと続いていく生地のリピートと、バラの成長過程は通ずるものがある、と感じました。

ー大きな原画を見せていただいた時、力強い植物の生命力と、花が持つ優美さの両方が自然と共存しているのが、とても印象的でした。”生命力”や”優美さ”を表現するために、画材選びや表現手法についてこだわったことはありますか?
今回の原画も、普段の制作と同様に「切り貼り」の手法を取り入れて制作しました。画材は、アクリルガッシュやクレヨンを使用して描いています。まずアクリルガッシュで色や形を描き、輪郭をなぞるようにハサミでカットしてパーツを作り、構成しています。

ガーベラの茎や芯、バラの枝葉といった部分は切り貼りによって形を作り、ワイルドな印象を表現しています。一方で、ガーベラの葉やバラの花は、筆で描いたラインをそのまま活かし、やわらかな表情を加えました。直線的なカットラインと、筆で描いた曲線のラインを使い分けることで、植物が持つ”力強さ”と”優雅さ”の両面を表現しています。

ー捺染スカーフは、クレヨンや絵の具で描いた原画のテクスチャーをできるだけ活かしながら、シルクスクリーンならではの魅力や可能性を最大限に引き出すことを、とことん追求しましたよね。
はい。インクジェットがCMYKの4色を組み合わせるのに対し、シルクスクリーンは色ごとに『版』と『染料』を用意し、一色ずつ丁寧に刷り重ねていきます。だからこそ、色の深みや質感、にじみのコントロールといった、手仕事ならではの魅力を追求できるんです。

今回のPJのもう一つのテーマでもあった「シルクスクリーンならではの魅力を最大限に引き出す」ため、奥田染工場さんに原画を持ち込み、クレヨンや絵の具で描いた原画のテクスチャーをどう活かせるか、表現方法について相談させていただきました。

すると、奥田染工場さんからは、手で直接染料を刷り込んでグラデーションを生み出す技法や、スキージの使い分けによって花の立体感を表現する方法など、手捺染ならではの技術をご提案いただきました。それらを実際にプリント工程に取り入れることで、やわらかな色の移ろいや花の表情を布の上に再現しています。

このプリントは非常に手間と時間を要する作業で、一枚一枚、職人さんの手で刷られているため、すべて少しずつ表情が異なります。機械では再現できない、シルクスクリーンならではの魅力をたっぷりと詰め込んだスカーフに仕上がりましたので、ぜひお手にとってご覧いただけたら嬉しいです。

インタビュー / 文:テキスタイル研究所Casa de paño






